文豪アルフォンス・ドーデ(Alphonse Daudet)と印象派の大家フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)。両者にインスピレーションを与えた南仏プロヴァンスの街タラスコン(Tarascon)をご存知でしょうか。ドーテの有名な三部作で描かれた英雄「タルタラン(Tartarin)」はこの街から誕生。南仏プロヴァンスに理想郷を求めたゴッホも、タラスコンの風景を作品に留めています。
タラスコンはブッシュ・デュ・ローヌ(Bouches-du-Rhône)県の西端、南北にあるアルルとアヴィニョンの間に位置します。843年の神聖ローマ帝国分割によって、当県は中部フランク王国の領土となり、その際にローヌ川(Le Rhône ル・ローヌ)が政治的境界線になりました。現在もお隣ガール(Gard)県との県境となっていますが、その境界線の監視上、タラスコンは古くからの要衝だったのです。
その象徴がタラスコン城(Le Château de Tarascon ル・シャトー・ド・タラスコン)。元々は監視用の要塞が建てられていただけでしたが、プロヴァンス伯であったアンジュー公ルネ1世(René 1er d’Anjou ルネ・プルミエ・ダンジュー)の時代に要塞宮殿として完成しました。お堀の中にあるメインの建物は、要塞として重厚な雰囲気を持ちます。その一方で、内部装飾などには宮殿としての壮麗さを兼備。こうしたコントラストの素晴らしさ故、中世フランスにおける最も美しいお城の1つに挙げられる人気の観光スポットです。
また、タラスコンを訪れるのであれば、そこで語り継がれる怪物の伝説に触れないわけにはいきません。その名は「タラスク(Tarasque)」。かつてローヌ川流域に生息していたとされるプロヴァンス地方伝説の怪物です。獰猛な性格から人々に恐れられ、龍に亀や山猫など複数の動物の要素を組み合わせた奇妙且つ物々しい姿でしばしば描かれます。このタラスクの討伐で一躍有名になったのが、タラスコンを守る聖マルタ(Sainte Marthe サント・マルト)。彼女のお墓や聖遺物を祀る聖マルタ参事会教会(La Collégiale Sainte-Marthe ラ・コレジアル・サント・マルト)は、数多くの巡礼者を迎え入れ、街の発展に大きく寄与しました。
他には中世以来の雰囲気が残る旧市街は散策におすすめ。石畳の小径を行けば、昔ながらの南仏に迷い込んだような錯覚に。1648年に建てられた市庁舎や古くからの小教会、修道院跡、今に残る市壁などにも注目です