《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第3回 〜画家セザンヌのアトリエとサント・ヴィクトワール山〜

2021年05月05日
タグなし

私が住んでいる街エクス・アン・プロヴァンス通称エクスは、画家ポール・セザンヌ(1839〜1906 年)の故郷であり、創作の地でした。
セザンヌは「近代絵画の父」と呼ばれるほど、美術史にとってなくてはならない存在。
今回は、エクスにあるセザンヌのアトリエを訪れます。

セザンヌってどんな画家?

セザンヌはエクスの裕福な家庭で生まれ育ち、20代前半に画家を志してパリに出ます。 最初は、モネやルノワールなど、自然の光を美しく描く「印象派」 の一員として活動していました が、やがて独自の画風を探究するようになり、エクスに戻って制作を続けました。


セザンヌは、自然を簡素化して「円筒・球・円錐」で捉える様式や、多方向からの視点をキャンパス の上で再構成する様式を生み出します。 確かにセザンヌの絵を見ると、普通の遠近法では描かれていなくて、どこか空間が歪んでいる感じがします。
こうしたセザンヌの絵画様式はピカソはじめ20世紀の画家に大きな影響を与えました。

時が止まった、こだわりのアトリエ

そんなセザンヌが母の遺産でエクスにアトリエを手に入れたのは、1901年62歳のとき。 以来、セザンヌは最期までそこで絵を描き続けました。


セザンヌによって、創作に適した空間へと改装されたアトリエ。 まず特徴的なのは、北側一面の大きな窓です。 この窓からは、太陽の光が強すぎず、弱すぎず、いつも一定の量で差し込むのだそう。 反対の南側は日差しが強すぎるため、雨戸が閉められていました。
くすんだ色合いの壁や、木の床も、光の反射加減を意識してとのこと。
セザンヌが、物の見え方に徹底的こだわっていたことがうかがえます。

さらにセザンヌはこのアトリエに、身近にある小物を持ち込んで、絵のモチーフにしました。 果物皿やラム酒の瓶、石膏のキューピッド像・・・。 最も描かれていたのがプロヴァンス製陶器の緑の小壺(写真中央の棚の上)で、セザンヌの作品に22 回も登場しているそう。


テーブルや小物についた絵具も、そのまま残っています。 当時のまま、時間が止まっているみたい。


ベレー帽やコート、作業着、傘など、セザンヌが実際に身に付けていた衣服もあります。 今にも本人が現れて羽織り出しそうなほどリアルです。
アトリエは、全ての物が一見無造作に置かれているのに、整然とした印象がありました。 不思議と心が落ち着いて、ずっと佇んでいたくなりました。

サント・ヴィクトワール山を望む丘

お次はセザンヌのアトリエを出て、10分ほどゆるやかな坂を上ります。 すると、彼が生涯にわたって描き続けたサント・ヴィクトワール山を望める「レ・ローヴの丘」に到 着します。
ここでは、セザンヌがイーゼルを立ててキャンバスに向かった、まさにその場所に立つことができま す。
セザンヌは、どこにアトリエを構えるか決めるとき、サント・ヴィクトワール山がよく見える場所が 近くにあることを第一条件にしたといいます。


サント・ヴィクトワール山はエクスから見える唯一の高い山です。
先の尖った岩山で、夕暮れ時は岩肌がピンク色に染まってとてもきれいなんですよ。


まちの中心部「ロトンド大噴水」前には、キャンバスを背負ったセザンヌの銅像が立っています。 たまたまかもしれませんが、セザンヌが向いているのは、サント・ヴィクトワール山の方向。 およそ120年前、こんな風に絵を描きに出かけるセザンヌの姿が、エクスにあったんですね。


エクスの文房具屋やお土産屋には、必ずセザンヌの絵のポストカードが置かれています。 セザンヌのこと、エクスのことをしたためて、日本の友人に送りたいと思います。

 

セザンヌの生涯を知るには、映画『セザンヌと過ごした時間』がおすすめです。
太陽の煌めき、乾いた岩、エメラルドブルーの川・・・エクスの自然を写した映像美も見所ですよ。

※セザンヌのアトリエ公式サイト(英語・フランス語) http://www.cezanne-en-provence.com/

「《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第3回 〜画家セザンヌのアトリエとサント・ヴィクトワール山〜」に1件のコメントがあります

  1. セザンヌのアトリエ、ほんと時が止まったように感じました。素敵な写真を1枚1枚みていると、訪れた時が昨日のように思い出されます。これからも「旅好きライター」さんの写真と記事を楽しみにしています。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

新着投稿記事

プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第28回 〜 プロヴァンスワインを買いに、シャトーへ行こう! 〜

フランスワインといえば、ほとんどの人はボルドーやブルゴーニュを思い浮かべますが、プロヴァンスも有名なワインの生産地です。車を走らせていると、至るところにぶどう畑やシャトーを見かけます。 実は、プロヴァンスはフランス国内で

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第27回 〜 デニムの発祥地「ニーム」のまちなかはローマ遺跡だらけ 〜

まちなかにローマ遺跡が点在 ニームは「フランスのローマ」といわれるほど、たくさんのローマ遺跡があります。 古代ローマ時代、第25回で紹介したポン・デュ・ガ-ルを通り、ユゼスから水を引いていたまちです。 また、ニームは「デ

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第26回 〜旧石器時代から続く山村「セーニョン」で、特別な岩に登る〜

プロヴァンスの山間には、可愛らしい村がいくつもあります。人口1000人程度のセーニョンもそのひとつ。 セーニョンに人が住み始めたのは遥か昔、中期旧石器時代(20万年〜3万5千年前)だとか。ネアンデルタール人とかクロマニヨ

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

【mamanのプロヴァンス街歩き、Cours Julien2022】速報!2022年度、世界で「最もクールな」51地区のランキング発表

プロヴァンス好きな皆様に嬉しいニュースが飛び込んで来ました。 英国の雑誌タイムアウトが毎年発表している世界で「最もクールな」51地区のランキングが2022年10月11日(火)に発表されました。 20,000 人の都市居住

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第25回 〜 2000年前にローマ人が建設した水道橋「ポン・デュ・ガール」〜

ニーム近郊オクシタニー地方にあるポン・デュ・ガール(Pont du Gard)は、ガール川にかかる巨大な水道橋です。 この水道橋は、古代ローマ時代の紀元前19年から5年かけて建設されたそうです ※年代については諸説あり。

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第24回 〜ノストラダムスが予言書を書いたまち「サロン・ド・プロヴァンス」〜

サロン・ド・プロヴァンスは、人口4万人ほどのまちで、ノストラダムスがいたことで知られています。 また、空軍基地や空軍士官学校があり、たまたま車で通りがかったときに、アクロバット飛行をしている戦闘機を見たこともありました。

記事を読む
プロヴァンス・キッチン

《大畑シェフ料理教室》第三回〜スフレパンケーキとエルダーフラワー風味のさくらんぼソース〜動画&レシピ

・エルダーフラワーのシロップ ①鍋に砂糖:水を1:2の割合で入れ、沸騰させる。※割合はお好みで変えてもOK ②沸騰したら火を止め、エルダーフラワー(とお好みでスライスレモン)の上に①を入れる。 ③そのまま一晩置いておく。

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第23回 〜 「サン・トロペ」後編:セレブの街をそぞろ歩き 〜

ここはセレブの街サン・トロペ。 エルメス、シャネル、グッチ、ヴィトン・・・歩いているとハイブランドのブティックが次々と目に飛び込んできます。 ふいに目の前にオープンカーが止まり、モデルのようにきれいな女性が男性にエスコー

記事を読む

新着投稿記事

プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第28回 〜 プロヴァンスワインを買いに、シャトーへ行こう! 〜

フランスワインといえば、ほとんどの人はボルドーやブルゴーニュを思い浮かべますが、プロヴァンスも有名なワインの生産地です。車を走らせていると、至るところにぶどう畑やシャトーを見かけます。 実は、プロヴァンスはフランス国内で

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

【プロヴァンス・ダイアリー】【プロヴァンスの風物詩】no.8 クリスマスの日にいただく13種類のデザート

南仏プロヴァンスでは、クリスマスに13種類のデザート(Les treize desserts レ・トレーズ・デセール)を食べる習慣があります。なぜ13種類?いつ何を食べるんでしょうか? なぜ「13」? キリストの「最後の

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第27回 〜 デニムの発祥地「ニーム」のまちなかはローマ遺跡だらけ 〜

まちなかにローマ遺跡が点在 ニームは「フランスのローマ」といわれるほど、たくさんのローマ遺跡があります。 古代ローマ時代、第25回で紹介したポン・デュ・ガ-ルを通り、ユゼスから水を引いていたまちです。 また、ニームは「デ

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第26回 〜旧石器時代から続く山村「セーニョン」で、特別な岩に登る〜

プロヴァンスの山間には、可愛らしい村がいくつもあります。人口1000人程度のセーニョンもそのひとつ。 セーニョンに人が住み始めたのは遥か昔、中期旧石器時代(20万年〜3万5千年前)だとか。ネアンデルタール人とかクロマニヨ

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

【mamanのプロヴァンス街歩き、Cours Julien2022】速報!2022年度、世界で「最もクールな」51地区のランキング発表

プロヴァンス好きな皆様に嬉しいニュースが飛び込んで来ました。 英国の雑誌タイムアウトが毎年発表している世界で「最もクールな」51地区のランキングが2022年10月11日(火)に発表されました。 20,000 人の都市居住

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第25回 〜 2000年前にローマ人が建設した水道橋「ポン・デュ・ガール」〜

ニーム近郊オクシタニー地方にあるポン・デュ・ガール(Pont du Gard)は、ガール川にかかる巨大な水道橋です。 この水道橋は、古代ローマ時代の紀元前19年から5年かけて建設されたそうです ※年代については諸説あり。

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第24回 〜ノストラダムスが予言書を書いたまち「サロン・ド・プロヴァンス」〜

サロン・ド・プロヴァンスは、人口4万人ほどのまちで、ノストラダムスがいたことで知られています。 また、空軍基地や空軍士官学校があり、たまたま車で通りがかったときに、アクロバット飛行をしている戦闘機を見たこともありました。

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第23回 〜 「サン・トロペ」後編:セレブの街をそぞろ歩き 〜

ここはセレブの街サン・トロペ。 エルメス、シャネル、グッチ、ヴィトン・・・歩いているとハイブランドのブティックが次々と目に飛び込んできます。 ふいに目の前にオープンカーが止まり、モデルのようにきれいな女性が男性にエスコー

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第22回 〜「サン・トロペ」前編:ブリジット・バルドーが愛した港町〜

小悪魔ブリジット・バルドー 60年代に一世を風靡したブリジット・バルドーをご存じですか? パリ出身の女優でありモデル、歌手でもある彼女は、そのセクシーかつ野生的な魅力で人々を虜にしました。 「ヨーロッパのマリリンモンロー

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第21回 〜ヨーロッパで最も美しいビーチがある「ポルクロル島」〜

車がいない穴場の島 ポルクロル島(Il de Porquerolles)は、第20回 〜 歴史、花、海、ダンス!?「イエール」の盛り沢山な一日 〜で紹介したイエールから、船で約20分のところにある島です。 イエールにはポ

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第20回 〜 歴史、花、海、ダンス!?「イエール」の盛り沢山な一日 〜

イエール(Hyères)は、地中海に飛び出ている半島があるまちで、「黄金の島々」と呼ばれる3つの島を有しています。 まちに7000本のヤシの木が植わっていることから、イエール=レ=パルミエ(Hyères-les-Palm

記事を読む
プロヴァンス・ダイアリー

【プロヴァンス・ダイアリー】《旅好きライターのプロヴァンス暮らし》第19回 〜 ラベンダー畑へ:③ソーエリア編 〜

真正ラベンダーとラバンジン ひとくちにラベンダーといっても、いくつも種類があるのをご存知ですか? スパイクラベンダーとかイングリッシュラベンダーとか、調べるといろいろあるのですが、プロヴァンスのラベンダーを見に行くにあた

記事を読む
ログイン